追悼 飯村 穰 先生

 酵母細胞研究会元会長の飯村穰先生が去る 8 月病気のためにお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈りしたいと存じます。

 飯村先生は、1969 年に東京教育大学大学院農芸化学専攻修士課程を修了後、当時の醸造試験所に入所され、ワインの産膜に関する研究や麹菌の遺伝子組換え系の開発に従事されました。当研究会の記録によりますと、1978 年の研究会で「ワインの産膜性酵母について」という演題で講演をされております。

 1997 年に山梨大学工学部に移られてからは、ワイン酵母の遺伝子発現に関する研究を精力的に行われると共に、当研究会の運営にも積極的に関わってこられました。2005 年から 4 年間会長職を務められ、その間、2006 年には第 17 回酵母合同シンポジウムを地元甲府市で開催されました。シンポジウムのタイトルは「原点としての酵母研究:温故と知新」というものでしたが、飯村先生のご研究のモットーである「微生物が関与する生産過程では、複雑な要素が絡み合っておりその複雑さの中から新たな理論を構築して新技術にまで育てていく」* というお考えを十二分に採り入れたシンポジウムの構成であったと思います。また、シンポジウム運営面でも、参加者の便宜を考えて昼食の弁当を用意されるなど、飯村先生ならではの細やかな心配りをされました。

 私と飯村先生との思い出を記させて頂きますと、1996 年に広島で開催された酵母合同シンポジウム終了後、東広島の醸造研究所を飯村先生と家藤先生のご案内で見学させて頂いたことを覚えております。また、運営委員会終了後の打ち上げや、研究会例会後の懇親会では、種々の酵母産物を賞味しながら興味深いお話やお酒についての蘊蓄や評価を伺うのが楽しみでありました。飯村先生の晩酌は、各社のビールを一通り飲むことから始まると伺ったときには、余人の及ぶところではない酵母産物愛と感服したものでした。山梨大学をご退職後はこのような機会を持てないまま、先生とお別れしてしまう時が来てしまったとは、もっといろいろなお話を伺っておきたかったと残念でなりません。

 飯村先生、どうか安らかにお眠り下さい。

2022 年 9 月 西澤正文


* 飯村先生のご研究のモットーは、髙木正道先生(新潟薬科大学名誉教授、前・新産業酵母研究会会長)による追悼文(新産業酵母研究会 web サイト)からの引用です。

 

Dr. Iimura