「イノベーションを推進する酵母研究」開催の趣旨

酵母は真核生物のモデル系として、20 世紀の生命科学を牽引してきた輝かしい実績があります。また、応用面でも、醗酵工業、食品産業、製薬工業など、幅広い生命科学の関連分野で、産業の進展に貢献してきました。一方、社会的には、金融経済問題に端を発した先進国を中心とする世界的な減速経済下、中国、インドなどを中心とする新興国における経済発展はめざましく、日本の技術開発についても、大きな問題提起と変革が迫られています。イノベーション(新技術)の創出による新規産業の創生に対する政府の期待は大きいものの、これに応える筈の大学・公的研究機関や産業界の実態とは、まだ大きな隔たりがある様に思われます。酵母を利用する新技術の開発、新産業の創生についても、もう一段の工夫と努力が必要な状況です。

21 世紀に入り、生命科学の研究対象が、細胞を基本とする生命現象の分子レベルでの解明から、ヒトなどより高次で複雑な生命現象の解明に大きくシフトするなかで、酵母研究の意義について再検討が必要な状況です。また、研究の手法に関しても、酵母を含めた種々の生物種でゲノム解析が完了し、ゲノム情報の活用やシステム生物学の興隆など、ポストゲノム時代に適応した研究の展開が求められる状況となっています。しかし、独創的な新技術の開発も、結局は、確かな基盤に立脚した研究者の独創的な研究成果、これを生み出す研究者相互の交流が極めて重要であり、質の高い情報や意見交換の場として本シンポジウムの役割は重要であると思っています。

上記統一テーマの趣旨はバイオサイエンスおよびバイオテクノロジーの原点をなしてきた酵母研究の成果を今一度見据え、最新の研究成果と結びつけることにあります。酵母研究についても、その意義と社会への貢献について、今一度再考してみる良い機会ではないかと思う次第です。これを機に若手をはじめ酵母研究者の層が一層厚くなることを祈念しております。

2010 年 1 月 4 日

第 19 回 酵母合同シンポジウム 実行委員長 地神 芳文