第21回酵母合同シンポジウム

開催の趣旨

本シンポジウムは終了いたしました

メインテーマ

顕微鏡の向こう側から毎日の生活まで − 酵母と微生物の仲間たち

趣意

 2013 年の R. Schekman 博士のノーベル生理学・医学賞受賞でも示されたように、酵母研究は生命現象研究のモデル系として生命科学の発展に大きな貢献をしてきています。酵母はこのような幅広い基礎研究への貢献だけではなく、近年のゲノム情報解析の進展による QTL(遺伝子発現パターンの遺伝)の解析やそれを利用した有用形質を持つ微生物の育種、さらには多くの遺伝的要因を持つヒトの病気の発症機構などの解析にも、モデル系として大きく貢献しています。

 酵母がこのように生物科学研究の基礎と応用の両面で重要な役割を果たしていることは論を待ちませんが、翻って酵母の人間生活に対する主な貢献の場は醗酵生産でしょう。醗酵生産の機構の研究は、これまでは個別の微生物種についての解析が中心でした。しかし、近年のゲノム解析技術とオミックスの爆発的な発展は、複数の微生物間の相互作用による遺伝子発現パターンの変動とそれによる有用あるいは不利益となる形質の発現機構の解明への道を開いています。

 人間生活と微生物の関わりのもう一面に、ヒトに感染して病気を起こす微生物はもちろんですが、腸内細菌を始めとし、Candida 属等の酵母や糸状菌などヒト体内の微生物の存在があります。これらの内在微生物間の相互作用に加えて、それらとヒトの生体防御機構との相互作用が、ヒトの健康の維持あるいは病気の発症に深く関わっていると考えられています。

 このような酵母とその仲間の微生物研究を取り巻く状況を考えると、今後ともに酵母は「究極の細胞」として生物科学研究に中心的役割を果たすことは当然ですが、他の微生物と共同あるいは競争して醗酵生産やヒト体内で機能するという複雑系の解析も大きなウエイトを占めるでしょう。人間の毎日の生活に役立つあるいは害をなす微生物群としてその作用機構を探求対象とすることで、醗酵分野、環境分野や医療分野で有用な微生物を創り出して、物質の効率よい生産、環境の保護、病気の予防や治療、健康増進という広範な分野に貢献する事が期待されます。

 今回のシンポジウムでは、人間の生活に関わる、酵母を始めとする微生物の研究者が一堂に会し、基礎・応用の別を問わない最先端の知見の発表と討論を行って、これらの研究が現在到達している地平を把握し、今後の展開の方向性を共に考える場にしたいと考えています。それを広く世界に発信すると共に、特に若手研究者に向けて発信し、新たな研究と技術開発の一歩を踏み出す機会になることを願っています。

2014 年 2 月吉日 

第21回酵母合同シンポジウム実行委員会 
委員長 西澤正文