第23回酵母合同シンポジウム

本シンポジウムは終了いたしました。
どうもありがとうございました。

開催の趣旨

メインテーマ

YEAST 2020+1 世界と未来を変える酵母

趣意

発酵パン、ビール、ワインは、いずれも紀元前数千年に古代文明で起きた、人類と酵母との偶然の出会いに端を発しています。以来、酵母をはじめとした微生物を利用した発酵製品が、人類の食生活を豊かにしてきました。また、酵素 enzyme の語源が in yeast(「酵母内で」)であることからもわかるように、現在の分子細胞生物学に繋がる生化学のスタートは、酵母がもつタンパク質による発酵現象の発見でした。その後現在に至るまで、酵母研究が分子レベルでの解明を目指す生物学研究をリードしてきたことは、2000 年以降細胞周期、転写、テロメア、細胞内輸送、そしてオートファジーという、多様な生命現象の解明を目指した研究において、酵母を主要な材料とした研究者がノーベル賞を受賞してきたことからも明らかです。同時に、発酵・醸造産業、あるいは医薬品を始めとした物質生産を通して、酵母は我々の日常生活に大きく貢献しています。

生物学の立場からは、酵母は人類が最も詳しくその仕組みを知っている生物の 1 つであることに疑いの余地はありません。オミックス解析は酵母研究の得意とする分野であり、実験室環境での酵母や発酵・醸造過程の酵母の有り様を様々なレベルで網羅的に調べる研究は現在も精力的に続けられています。一方で、解析技術の進歩により酵母研究は大きく変貌を遂げつつあります。最新の顕微鏡技術は、蛍光タンパク質やマイクロ流体デバイスの開発と相俟って、生きている酵母細胞内の分子の動態を手に取るように観察することを可能にしました。また急速に進歩した DNA シークエンス技術が、世界中の酵母の遺伝的組成を比較する研究を可能にし、自然界での酵母の生き様や、酵母が地球上に拡散し人の手で育種されてきた歴史を照らし出しています。さらに、合成生物学という新しい分野では、酵母の染色体や遺伝子の再構成や、本来行われていない代謝反応を駆動する酵母の作製を目指した研究が行われています。これらの研究の成果は、我々の知的好奇心を満たしてくれるだけではなく、酵母との出会いで豊かになった我々の祖先の生活と同様、我々や子孫の生活を変え、持続可能な社会の実現に寄与するに違いないでしょう。

我が国における酵母研究は基礎、応用の両面において長い伝統をもち、国際的にも評価される研究が続けられてきました。その中で、酵母合同シンポジウムは、所属や分野の壁を越えた酵母研究者の交流を目的としてこれまで 22 回開催されており、基礎と応用双方の研究者にとって有意義な学術集会となっています。第 23 回となる今回は、「YEAST 2020+1 世界と未来を変える酵母」をメインテーマとし、酵母および関連微生物の研究者が一堂に会して基礎・応用の別を問わない最先端の知見の発表と討論を行います。これにより、酵母とともに歩んできた人類の生活および基礎研究の歴史を振り返り、さらなる技術革新による研究進展や産業利用によって変革可能な未来を共に考える場にしたいと考えています。その内容を広く世界に発信し、将来を担う若手研究者をエンカレッジすることで、本シンポジウムが酵母研究の過去と未来を繋ぐ架け橋となることを願っています。

2021 年 4 月吉日 

第23回酵母合同シンポジウム実行委員会 
委員長 松浦 彰