酵母細胞研究会例会記録 解題
酵母細胞研究会の始まり近くから長いあいだ運営に関わってこられた、元会長・大隅正子先生から、大切に保管していらした古い資料を 2004 年の春に引き継がしていただいた。名簿や会計帳簿なども残されているが、私はこの会の学術的な経緯を明かにして記録に残したく思い、内容を調べさせていただいた。醗酵協会誌の別刷（PDF 512 KB）、湯浅会長の手紙の原稿、例会の案内状などがあって、従来のホームページで公開してきたものでは不明だった、第 85 回以前の本会の様子が、次第に明らかになってきた。
「醗酵協会誌」（現在この雑誌は、(財)バイオインダストリー協会の機関誌「バイオサイエンスとインダストリー」に引き継がれている）の巻末に「学会消息」という欄があり、1965 年の第 23 巻（第 2 号）、91(45)-93(47) 頁に、湯浅会長が「酵母細胞研究会」の紹介をされている。ここには、昭和 34 年 5 月の第 1 回から、昭和 39 年 7 月の第 44 回までの例会の開催年月、そのときの話題提供者と表題、その内容が発表された文献が、列挙されている。この記事によって、会の成立以来 20 回までの例会についてを知ることができた。この後も例会の記事を同欄に継続する旨の予告があるが、残念ながらそれは実現していない。
この「醗酵協会誌」によると、例会の第 1 回は昭和 34 年 5 月である。湯浅会長が書かれた賛助会員募集依頼文の原稿の冒頭で、酵母細胞研究会は「1959 年（昭和 34 年）10 月はじめに約 20 名の酵母関係研究者をもって創立され」たとなっているが、5 ヶ月の違いは何か記憶違いによるものであろう。「例会の講演者、講演題目の協議決定を行うもので年に 2 回又は 3 回開催の予定」で開催する運営委員会は、昭和 36 年 12 月 13 日（水）東大出版会館において設立された。
第 20 回以降の例会については、林部正也先生が保管された運営委員会や例会の案内葉書などが、よく整理されて残っており、開催日時と曜日、場所を知ることができた。
今回の調査では、第 54 回と第 81 回の記録が見つかっていない。第 54 回は、1966. 1. 24 の第 53 回と 1966. 3. 2 の第 55 回の間にあたるものだが、実際に開催されたか否か今は不明である。第 81 回のほうは、1974. 4. 27 の第 80 回と 1974. 12. 14 の第 82 回の間にあたるが、本会が担当した第 1 回酵母合同シンポジウムが 1974. 5. 28-29 に開催されているので、おそらくこれが相当すると考えられる。ただし、資料からこのことは確認できない。会をシンポジウム形式で開催した場合に、それを計数するときと、しないときがあるのである。1961. 10 の第 1 回シンポジウムは第 21 回例会、1963. 4. 8 の第 2 回シンポジウムは第 34 回例会に位置づけられている一方で、第 39 回例会の前 1963. 10. 13 に開催された第 3 回シンポジウムや、第 52 回例会の前 1965. 10. 13 に開催された関西と合同のシンポジウムは、例会に数えられていない。
1968. 6. 28 に開催された例会は、第何回のものか記されていない。これを挟んで、1966. 3. 2（第 55 回）− 1966. 7. 8（第 56 回）− 1966. 10. 6（第 57 回）− 1966. 12. 12（第 58 回）と、1968. 12. 6（第 55 回）− 1969. 1. 18（第 56 回）− 1969. 2. 26（第 57 回）− 1971. 2. 13（第 58 回）と、それぞれ四回分の例会の番号に重複がある。この時期は、例会の開催密度がそれまでより低くなっていた頃で、運営委員会に混乱があったものと思われる。
以上の点を除けば、第 1 回から次の第 169 回まで、45 年間の例会の内容を、ここにほぼ把握することができた。貴重な資料を保管してこられた大隅正子先生、並びにこれまでの運営委員会の諸先生に心から敬意を表したい。
ざっと目を通すだけでもお分かりのように、酵母の研究ということを中心にしながら、それと何らかでも関わりをもちそうな話題を集め、知識や技術を吸収しようと、多くの例会が開かれてきた。記録には残されていないが、参加した研究者のあいだで、貴重な討論・交流・懇親も、同じ回数重ねられてきたわけである。結果として本会は、バイオサイエンス全般を発展させるための研究会としても機能してきた。このような伝統は、将来の本会にも続いてゆくと確信される。
2004.10.13 酵母細胞研究会会長（執筆当時の役職） 依田幸司